一夜が明け、レジスタンス達は大慌てでジープに乗り込む。

「駄目だ、通じん!」

「急げ!弾薬を早く!!」

「早く乗れ!もたもたするな!!」

「落ち着け!半分は此処に残れ!別働隊がいるかもしれん!!」

 街1つが完全に焼かれた。

 不安と焦り、怒りと憎しみがレジスタンスを襲う。

「面倒な事をしてくれたものね」

 彼らの様子を岩に凭れながら見ていたは、腕を組んでぼやいた。

「被害がどれ程なのか分からないけど……見過ごせないわ」

「スカイグラスパーを飛ばすわ。ムウ、出して」

「えっ?俺ぇ?」

「嫌なら良いのよ?私1人で行くから」

「あ〜、はいはい。分かりましたよ」

 肩を落としてとぼとぼ歩き出すフラガ。

 そんな背中に、マリューは叫んだ。

「少佐、出来るのはあくまで救援です!バギーでも医師と誰かを行かせますから!」

「そっちもなるべく早く来いよぉ」

「大丈夫かしら」

「大丈夫なんじゃない?私も一緒に行くし」

 凭れていた身体を起こし、フラガの後を追う。

 マリューはそっと息をつき、他のクルー達に指示を出す。

「総員、直ちに帰投!警戒態勢を取る!!」

 アークエンジェルのクルー達も、緊迫した空気に飲み込まれた。

「で、何だってお前さんが居るんだ?」

 スカイグラスパーのシートに着き、操縦をするフラガが肩越しに振り返る。

「居ちゃ駄目?」

「駄目じゃないけどさぁ……バギーで来いよ」

「何で?」

「何でって………はぁ、もう良い」

「…………えへ」

「えへ、じゃない!」

 ペシッと頭を叩くフラガ。

 は叩かれた所を両手で押さえ、半睨みでフラガを見る。

「次の戦闘、撃ってやる」

「おいっ!笑えねぇ冗談言うな!!」

「撃ってやる」

「おい」

「絶対撃ってやる」

「………申し訳ありませんでした、大佐殿ぉ」

「…………まぁ、許してやらん事もない」

「……お前……性格変わったな………お兄ちゃん悲しいぞ」

「…………てへ」

「………好きにしてくれ………」

 こうやって時々子供のような行動をしてくれるのだが、どうも場違いな気がしてならない。

 実際子供なのだから不思議ではないが、は軍人歴が長い。

 慣れてしまった軍人の態度とは、明らかに違うのでギャップに追い付けないでいる。

「着陸するぞ」

「は〜い」

 呑気な声だ。

 深い溜息を漏らし、スカイグラスパーを着陸させる。

 外に出ると、遠くから見た感じと違っていた。

「ひでぇ……こりゃ全滅かな?」

「街はね。でも、人間は違うみたい」

 の見る方に視線をやると、泣き崩れている人や呆然としている者、様々な人が居た。

 フラガは驚きながら通信を入れる。

「此方フラガ。街には生存者がいる……と言うか、かなりの数の皆さんがご無事のようだぜ?」

『えっ!?』

「こりゃ一体どう言う事かな?」

「恐らく、死者は出てないでしょう。怪我人はいたとしても……」

『敵は!?』

「姿はない」

「襲撃して基地に帰って行った後……ってとこじゃない?」

「何を考えてるんだろうねぇ……あちらさんは」

 一旦通信を切り、辺りを見渡す2人。

 そこにバギーでやって来たナタルが近づいて来た。

「大佐、少佐……これは一体……」

「例えるなら、高波を警戒して非難していた者達………かな」

、それ例えになってないぞ」

「うん、私もそう思う」

 自分で言っていて何同意しているんだ、と頭を抱えながらフラガは思った。

「動ける者は手を貸せ!怪我をした者をこっちへ運ぶんだ!!」

「サイーブ」

「長老!?どのくらい殺られた?」

 群れの中から出て来た老人に、サイーブは訊ねる。

 だが、返答は驚くべき内容だった。

「死んだ者はおらん」

(やはりね)

 老人に視線を向け、話しを聞く3人。

「最初に警告があったわ。今から街を焼く、逃げろ……とな」

「何だと!?」

「警告の後バクゥが来て、そして焼かれた。食料、弾薬、燃料………全てな。確かに死んだ者はおらん………じゃが、これではもう生きてはいけん」

「ふざけた真似をっ!どう言うつもりだ、虎め!!」

「だが、手立てはあるだろ?生きていればさ」

「何!?」

「どうやら虎は、あんたらと本気で戦おうって気はないらしいな」

 そうでなければ、彼は軍人としてやって行けない。

「どう言う事だ?」

「こいつは昨夜の一件への単なるお仕置きだろ?こんな事くらいで済ませてくれるなんて……随分と優しいじゃないの、虎は」

「何だと!?」

 フラガの発言にカッとなり、ナタルは頭を抱え、は溜息を漏らす。

「こんな事!?街を焼かれたのが、こんな事か!?こんな事する奴のどこが優しい!?」

 カガリは今にも銃を向けるような勢いで言った。

「あぁ……気に障ったんなら謝るけどね」

「虎はザフトの正規軍。もし本気だったら、住民共々灰になってるわ。あっちは昨夜で兵士を失ってるのよ?敵討ちもしたいでしょうに、それをやらなかった。これを優しいと言わず、何て言ったら良いの?」

「あいつは卑怯な臆病者だ!我々が留守の街を焼いて、それで勝ったつもりか!?我々は何時だって勇敢に戦って来た!この間だって、バクゥを倒したんだ。だから、卑怯で臆病なあいつはこんな事しか出来ないんだ!!」

「それはどうかな」

 火に油を注ぎ込むような事を、は言った。

 カガリは一瞬止まり、怒りの目でを睨む。

 は小さく笑い、サイーブ達を見る。

「卑怯で臆病者が、砂漠の虎、何て洒落た異名……付く訳ないでしょう。戦場はスポーツのように制限がある訳じゃないわ。終わりはどちらかの敗北………又は滅び」

「なっ!?」

「命まで取らなかった虎は、軍人からするととても優しい人よ。生きてさえいれば、何度でもやり直せるもの。死んだら何も出来ない。約束さえも……守れないから」

 生きているからこそ出来る事もある。

 死んでしまっては、後悔を残すだけで何も出来ない。

「忘れないで。戦争は、遊びじゃない。喧嘩でもない。殺し合いよ」

 人の命を奪い合うだけの、最も愚かな行為。

「サイーブ、ちょっと来てくれ!」

 一瞬落ち着きを取り戻そうとした空間に、1人の男が走って来た。

 数人の男達がジープに乗って出て行っていた。

「お前ら何処へ行く!?」

「奴等は街を出てまだそう経っていない。今なら追いつける!」

「何!?」

「街を襲った後の今なら、連中の弾薬も底をついている筈だ!」

「俺達は追うぞ!こんな目に遭わされて黙っていられるか!」

「馬鹿な事を言うな!そんな暇があったら、怪我人の手当てをしろ!女房や子供に付いててやれ!そっちが先だ!」

「それでどうなるって言うんだ!見ろ!タッシルはもう終わりさ!!家も食料も全て焼かれて、女房や子供と一緒に泣いてろ、とでも言うのか!?」

 サイーブの止める声に耳を傾けず、多くの男達が出て行く。

 カガリもアフメドの運転するジープに乗り込み、出て行った。

「なんとまぁ……風も人も熱いお土地柄なのね」

「そんな呑気な事言ってる場合?」

「全滅しますよ?あんな装備で、バクゥに立ち向かえる訳がない!」

「だよねぇ」

 何故それが分からないのか、とフラガは行ったレジスタンス達に言いたい。

「ま、言って分からなければ身体で知れ。これで死んだって、誰の責任でもない」

「大佐っ!」

「だってそうでしょう?私達は忠告もしたし、レジスタンスなんてやってる人達だもの。死ぬ覚悟はしてるでしょうよ」

「……おい、。お前ほんとにどうした?最近変だぞ」

「別に。代わりないよ。艦に戻る。通信、入れといてね」

 ナタルが乗って来たジープに乗り込み、エンジンをかけてアクセルを踏んだ。

 砂煙を上げてアークエンジェルに戻る

 2人は顔を見合わせ、肩を落す。

「兎に角……通信だな。此方フラガ。ちょっと問題起こっちまってねぇ……レジスタンスの何人かが砂漠の虎を追いかけて出て行っちまった」

『何ですって!?追ってったって………なんて馬鹿な事を!!』

「俺もそう思うよ」

『何故止めなかったんです、少佐!大佐も居たでしょう!?あぁ、もう!!』

は止めたさ。でも、聞いちゃくれなかった。それに、無理矢理止めたらこっちと戦争になりそうな勢いだったんだよ………そうなったら、太刀打ち出来ない」

 彼らは民間人であり、組織化されている軍とは違う。

 絶対的な権力を持つ者もおらず、個々の考えで動いていると言っても過言ではない。

 自分達に牙を向ける者、それが彼らの敵だ。

「それより、こっちはどうする?怪我人は多いし、飯や水の問題もある」

『レジスタンスの援護は、ヤマト少尉に行って貰います。彼らを見殺しには出来ません』

「じゃあ、こっちはどうする?」

『そちらには、残っている車両で水や医薬品を送らせます』

「りょ〜かい。がそっちに戻ってる………あまり、刺激を与えるような事はしない方が良いぞ」

『何かあったんですか?』

「まぁ、こっちでも多少揉め事っぽいのはあったんだが………原因はそれじゃない。多分、何かあったんだ。兎に角、今のあいつの状況は良くない。注意してくれ」

『分かりました』

 注意のしようもないのだが、取り敢えずだ。

 いくつか思い当たる節もある。

 民間人であるキラ達が軍に志願した事。

 タブーに近い事を口にしたキラ。

 味方殺しのスカーレットムーン。

 フラガの思い当たるのはこの3つだが、それ以外にもあるように感じられた。

「味方殺しのスカーレットムーン……か」

「はっ?」

「いや……もう、立ち直ったと思ってたんだがなぁ……傷は、そう簡単に癒えないものだなって思ってな」

 この異名が付いたのは、今から5年程前の話しになる。

 その頃のは11歳で、まだ特殊部隊に所属していなかった。

 階級は大尉。

 少佐へと昇進するきっかけが、この異名と深い関わりを持っている。

 手に入れた地位は、多くのモノを失った結果。

「さぁて、怪我人の手当てでもしますか」

 気持ちを切り替え、軍医の元に行くフラガ。

 願わくは、戦いに行った者達が無事に帰ってくる事を……。