「こんなんだったらもっと派手に倒しておくんだった!!」
狭いコックピットで文句を言うは、バスターが元に戻っているのを見て舌打ちをした。
『!もう止めろ!!』
「アスランもうっさいわね!私の身を案じるんだったら、攻めて来るの止めなさいよ!!」
サーベルを振り、ビームライフルを撃つ。
「だいたい、ニコルもっ!」
近づいて来たブリッツにビームライフルを撃ち、避けた瞬間に体当たりをする。
「ディアッカもっ!」
ランチャーで攻撃をするバスターに急接近し、腕を取って投げ付ける。
バスターはそのままジンと衝突した。
「イザークも!!」
新たな装備を装着して出て来たデュエル。
お互いビームサーベルで攻撃をする。
紙一重で攻撃を交わし、シールドでデュエルのサーベルの動きを封じた。
「あんた達クルーゼ隊は性格が悪いのよ!!」
溜まっていた怒りを晴らすように、思いっきり蹴り飛ばす。
そしてビームライフルでジンの手足を撃ち、接近するミサイルを撃ち落した。
『派手に暴れてるなぁ、』
「ムウ!?何で………って!ストライク!?」
モニターに映ったストライクを見て、愕然とした。
OSはナチュラルように戻してはおらず、現在それを扱えるのは1人しかいない。
「どう言う事!?何故彼が居るの!!」
『残っちまったんだよ!坊主が決めたんだ、仕方ねぇだろ!!』
「何て馬鹿な事を」
『!行ったぞ!!』
「っ!?」
再びブリッツが攻めて来た。
はそっと息を吐いて目を瞑った。
『っ!?』
自分を呼ぶ、キラの声がした。
「お遊びは、此処までよ」
呟きと同時にシールドをブリッツに投げ、もう1本のビームサーベルを抜いた。
ペダルを深く踏み、何時も以上の速さでブリッツの間合いに入る。
「チェックメイト」
手足を切り、ヴェサリウスのある方に向って投げた。
『ニコル!?』
「余所見、してる場合?」
『っ!?』
ニコルに気を取られたほんの一瞬、目の前に居なかったセレスが居た。
『くそっ!』
ビームライフルを手に、引き金を引こうとした瞬間、それは1本のビームサーベルに破壊され爆発した。
そしてもう1本のサーベルが右腕を切る。
「終わりよ」
左腕を取り、ブリッツ目掛けて投げ飛ばす。
イージスはブリッツと衝突。
はシールドを持ち、すぐにキラ達の元へ向かった。
この時既に、アークエンジェルはフェイズ3。
バスターはフラガが何とかしたらしい。
よく見ると、身動きも出来ない程落ちていた。
問題はストライクとデュエル。
「キラ!」
ストライクではもう身動きも出来ない程落ちているにも関わらず、ストライクは動いた。
そしてデュエルが、ビームライフルで何かを狙っている。
「イザーク!!」
思わず、通信を入れて名前を呼んだ。
彼が狙っているのは、アークエンジェルから出たシャトル。
『邪魔をするなぁぁぁ!!』
何度も引き金を引くイザーク。
『待て!それには!!』
守ろうと、必死で腕を伸ばすキラ。
「止めてイザーク!民間人を殺さないで!!」
『逃げ出した腰抜け兵がぁぁぁ!!』
声も、手も、届かなかった。
一筋の光が、シャトルを突き抜ける。
ストライクがシャトルの近くに到着した瞬間、爆発が起こった。
「キラ!?」
ストライクが吹き飛ばされ、アークエンジェルから離れる。
『………そ……な……………そんなっ!うわぁぁぁぁああぁぁ!!』
キラの叫び。
は唇を噛み、デュエルを睨み付けた。
「イザーク!!」
Gシリーズの中でも軽いセレスは、まだ動ける範囲内だった。
はビームサーベルを手に、デュエルの元へ向う。
「お前は許さない!!」
かろうじで動けるデュエルは、振り下ろされたサーベルをシールドで受ける。
だがは、もう1本のサーベルでビームライフルを破壊。
続いてレールガンも破壊し、爆破する前にデュエルを蹴り飛ばして離脱。
レールガンが爆破した事により、デュエルの頭部に被害が及んだ。
『大丈夫かイザーク!?』
「クソッ!メインモニターがいかれたっ!!」
『あぁ、でも平気みたいだな。降下は何とか出来るだろ』
「フン、当たり前だ!」
『しっかし、イザークがこっち来てくれて助かった。あのMSが蹴ってくれなかったら、離れたまんまだったろうし』
「何?」
ディアッカの何気ない言葉に、イザークは眉を顰めた。
―――あのMSが蹴ってくれなかったら、離れたまんまだったろうし。
ビームライフルとレールガン、メインモニターまで持っていかれ、腹だたしい事この上ないと言うのに。
「ふざけた真似をしやがってっ」
『イザーク、ディアッカ!無事か!?』
『おぉ、アスラン。わりぃ、もう身動き出来ねぇみたい』
『そんなっ』
『俺達、このまま降下するから。後頼むな』
『…………気を付けろよ』
「言われるまでもない」
Gシリーズは基本的に単体での大気圏降下が可能。
2人はキーボードの上で指を踊らせながら設定を変える。
そしても。
「突入角度調整、排熱システムオールグリーン。自動姿勢制御システムオン。BCS、ニュートラルへ移行。計器は………熱で干渉を受けてるわね」
単体での降下は初体験だが、冷静で居られる自分が可笑しい。
先程は怒りが湧き上がっていたと言うのに、今は落ち着いている。
「………ストライク……いた」
はバーニアを全開し、腕を伸ばしてストライクを捕まえる。
「キラ!キラ、返事をして!!」
『…………僕……は………』
「気をしっかり持ちなさい!今からストライクのシステムに入り込む!もう少しだけ頑張って!!」
遠距離操作を可能とするセレス。
ストライクのシステムにリンクし、目眩が起こりそうなOSを睨んだ。
だが此処で怯むようなではない。
「突入角度調整、排熱システムオールグリーン。自動姿勢制御システムオン。BCS、ニュートラルへ移行」
セレスと同じ設定にし終えると、はもう一度声をかけた。
「機体の前にシールドを立てて。少しは抵抗出来るから」
『………分かった………』
設定するのが遅すぎたのか、キラの声がとても小さい。
シールドが立てられたのを見届け、も機体の前にシールドを立てる。
『っ!』
「マリュー!?」
降下して行く様子を、メインモニターで見ていたは、端に映ったアークエンジェルを見て驚いた。
『艦を寄せるわ!着艦して頂戴!!』
それは目標地点と外れる、と言う事を意味している。
は目を伏せ、苦々しく言った。
「…………有難う」
自分とキラの為なのか、セレスとストライクの為なのか。
その両方を考えての行動だと分かっていても、目標地点からずれるのは艦にとって大きな痛手。
しかも、降下予想ポイントはザフトの勢力圏内。
「……砂漠……」
脳裏に浮かんだ1人の男とその恋人。
「面倒な所にっ」
その面倒な所に降りるようしてしまったのは自分だ。
「キラ、着艦する」
『…………うん』
寄って来た艦に着艦すると、ブリッジから歓声の声が一瞬上がった。
だがすぐに気を引き締め、無事着陸出来るよう注意を払う。
『キラ、無事!?ねぇ、返事をして!!キラ!?』
友達の身を案じるミリアリアの声。
そしてようやく、キラが残った理由を悟った。
(残ったのか、彼らも)
降りる事を躊躇っていたキラだが、私服に着替えた時点で降りると思った。
友人達も、一緒に降りると思っていた。
しかし彼らは艦に、ブリッジに居る。
キラが残ると言い出すとは思わない。
なら、彼らの誰かが残ると言い出したのだろう。
優しい人だから、友達を置いて降りる事なんて出来ない。
『キラ!!』
「少し落ち着きなさい、ミリアリア。キラは大丈夫。気を失っただけだ」
『でもっ!』
「今やる事はキラを呼び続ける事じゃない。キラの身を案じるなら、艦をちゃんと着陸させる事だ。それが出来なければ助かるものも助からない」
キラは大丈夫。
そう言い切る事が出来るのは、キラがコーディネイターだから。
ナチュラルならきっと駄目だろう。
(大丈夫、キラなら絶対)
コックピット内はセレスより熱い筈だ。
キラは早く助ける為には、無事に着陸して早急の処置が必要。
「頼んだわよ、ミリアリア」
『分かったわ!』
信頼してくれている、そうミリアリアが思った瞬間だった。
大地を肉眼でも確認出来る程降下したアークエンジェルは、マリューの声で姿勢を変えた。
「主翼展開!」
「主翼展開します!大気圏内推力へ!!」
降下していくスピードを徐々に落とし、大地と激突しないよう細心の注意を払う。
「ハッチ開けっ!セレス、ストライク、ゼロを戻して!!」
内線で格納庫に向って言う。
両方のハッチが開き、ゼロは片方から、ストライクを抱えたセレスがもう片方から入る。
「着陸体勢用意!」
マリューの言葉から数秒後、アークエンジェルは着陸態勢に入り、砂煙を上げて広い砂漠に着陸した。
誰もが無事に着陸したのに喜んだが、マリューは急いでブリッジを出て行った。
それを追いかけるようにミリアリア達もブリッジを出る。
「っ!」
先にゼロを格納庫に収めたフラガは、コックピットから出て来たを呼ぶ。
だがはそれに反応している暇もなく、隣に収められたストライクのコックピット前に走った。
まだMS自体熱を持っているが、気にしている場合ではない。
ヘルメットを取り、外側から開ける。
ゆっくり開いたコックピットからは、凄い熱気が出て来た。
それを正面から受けるは僅かに目を細め、戸惑う事なく中に入る。
「、キラ君!」
「キラ!!」
ブリッジから急いで来たマリュー達は、緊張と不安な表情で見守っている。
コックピット内は予想以上に熱く、ナチュラルだったら死んでいた程だ。
ヘルメットを取り、首元を緩める。
「ストレッチャーを!医療班を早く!!ムウは手伝って!」
呼ぶと、フラガが走ってやって来た。
シートベルトを外し、何とか外に運び出す。
「スーツを脱がすわ。手伝って」
体温も急上昇している今、キラに必要なのは身体を冷やす事。
フラガの手伝いの元スーツが脱がされ、タイミング良くストレッチャーが来た。
キラをストレッチャーに乗せると、慌しく医務室に運び込まれる。
「全機、冷却を施せ!素手で触るな!!」
整備班に指示を出すと、キラのスーツをフラガに押し付け待機室へ向う。
「おい、!」
後を追って部屋に入るフラガは、眉を顰めながら訊ねた。
「何をそんなに焦ってるんだ。坊主も艦も無事だったんだぞ」
「なら逆に訊ねますけど、何で貴方はそんなに呑気でいられるんですか?此処が何処だか、分かってない訳?」
ロッカーを開け、パイロットスーツの首元を緩める。
「着替えるから、出てって」
「何だよ、昔は堂々と着替えてたのに」
「銃で撃たれたいならどうぞ」
「スイマセン」
出て行け、と言ったにも拘らず、フラガは後ろを向いただけで出て行かず、は溜息を漏らしてスーツを脱いだ。
そして話の続きをする。
「アラスカから大分離れただろうけど、無事降下出来たんだ。一先ずは喜んだらどうだ?」
「喜べる場所なら喜んだわよ。でも、此処は喜ぶ事すら許してくれないわ」
「砂漠だしなぁ、見事にザフトの勢力圏内だろ?」
「分かってるんだったら、もう少し緊張したら?行き成りこんなのが降りて来て、あちらさんだって驚いてるわよ」
バタンっとロッカーを閉め、荒々しい足音で待機室を出て行く。
フラガは深い溜息を漏らし、自分のロッカーに向う。
「物に当たるなよな、馬鹿娘」
焦っているだけでなく、今のは機嫌が非常に悪い。
不機嫌な理由は言わずとも分かるので、あえて火に油を注ぐような真似はしなかった。
ヘリオポリスの学生がシャトルに乗らず残った事。
降下地点がアラスカより大分離れた事。
正規軍でもないキラが単体で降下してしまった事。
不機嫌になる理由を挙げればまだ出て来る。
「マリュー、ナタル」
喧嘩を売りに来たような勢いで入って来たので、他のクルー達は一瞬肩を震わせた。
「パル軍曹、地図をメインモニターに。チャンドラ軍曹は、艦の被害状況をまとめろ。ノイマン少尉はエンジンの残量を見て、補給なしでどれだけ持つか確認。トノムラ軍曹、艦の周りに敵が居ないか確認しろ。もたもたするなよ」
「「「「はいっ!」」」」
「少しは休んだら?疲れているでしょう?」
「断わる。今はそんな時間はない。地図はまだか」
「すいません、出します」
マリューの気遣いを跳ね飛ばし、はメインモニターを見て頭をフル回転で働かせる。
マリューは悲しげな表情でを見たが、すぐ諦めて地図に視線をやる。
「アラスカより大分離れたな」
口元に手を沿え、僅かに目を細める。
この仕草はの癖。
考え事をしている時の何時もの癖だ。
「トノムラ軍曹、敵は?」
「姿はありません。デュエル、バスター共に反応なし」
一先ずすぐに攻められる事はない、と言う訳だ。
ここでようやく緊張が和らぎ、そっと息をついた。
「此処はザフトの勢力圏内。嫌な所に降りてしまったわね」
砂漠には地球軍の基地がない。
此処を抜けるのは容易ではないだろう。
(まぁ、今は先の事より……)
視線をメインモニターからマリューとナタルに移し、腰に手を当てた。
「さて――本題に入ろうか」
の声が、明らかに低くなった。