セレスを格納庫に治めた後、ストライクがポットを拾って帰還して来た。
「中佐ぁ、良いんですか?」
マードックがコックピットを覗きながら訊ねた。
はそっと息をついた。
「今更、追い返せないだろう?良いんじゃないの?彼は民間人で、軍人の考えは分からないんだから」
「そうかもしんねぇですけど」
「まぁ、此処は戦艦だ。文句があったら、ポットに乗って貰って宇宙にほり出すさ」
「ほ、本気ですか?」
「本気だと思うか?」
ニヤッとは笑った。
マードックは冷や汗を流しながらセレスから離れる。
「さて、調整はこれで良いか」
軽くコックピットを蹴り、外に出た。
下を見ればまだ民間人が出て来ている。
周りを見ると、赤髪の少女とサイが宙に浮いていた。
その近くには悲しそうな表情をするキラ。
(赤髪?)
はタラップを蹴ってキラ達の元に向かい、赤髪の少女に話しかける。
「失礼」
「えっ?」
驚きの声を上げたのはキラだった。
「貴方はもしや、大西洋連邦事務次官のジョージ・アルスター殿の娘、フレイ・アルスター嬢では?」
「貴方、パパを知ってるの!?」
父の名を上げられ、フレイはの腕を掴んだ。
はそれを反射的に払い除ける。
「っ!?」
払い除けられた手を、もう片方の手で押さえる。
サイもキラも、の行動に驚く。
「っと、申し訳ない。私は人に触られるのが苦手で……大丈夫でしたか?」
「え、えぇ……」
「そうですか。先の質問ですが、アルスター事務次官とは何度かお会いしております。貴方の事も、事務次官から何度か。とても貴方を大切にしているようで」
「やだ、パパったら」
仕事の関係者にまで自分の事が話されているとは思っていなかったのだろう。
口では嫌がっているが、内心では喜んでいる。
「申し送れました。私はこの艦のクルー、・と申します。此処は戦艦ですので、自由に歩き回る事は出来ませんが……ご友人達と共に居住区にいて下さい」
そう言うと、フレイはサイの服の袖を掴んで頷いた。
「中佐ぁ!!」
下にいるマードックが声を上げて呼ぶ。
「どうした?」
「艦長らが呼んでますぜ!至急、ブリッジに上がってくれって!」
「分かった、すぐに行くと伝えろ」
視線を戻し、近づいた壁に手をつく。
「では、私は仕事があるので」
3人に向って敬礼をすると、キラの肩を軽く叩いて壁を蹴った。
叩かれたキラは、それが何を意味するのか理解出来ず、去って行くの後姿を見詰める。
(何だったんだろう)
首を微かに傾げるキラに、サイはフレイの肩を抱いて出ようと言った。
「あ、うん」
先に行く2人を後ろから眺めるキラは、やはり悲しそうな表情をする。
フレイ・アルスターは、キラにとって憧れの女の子。
その女の子が、友達のサイからラブレターを貰ったと聞き、驚いた。
(お似合い……なんだよね)
2人を見ていて、そう思った。
一方、ブリッジに呼び出されたは、椅子に座りながら腕を組んでいた。
「ユーラシア……ねぇ」
「そんな嫌そうな顔するなよぉ」
「だって、嫌だもん」
頬を膨らませて言う。
マリューは苦笑いをしながらを見た。
は軍人として、中佐と言う立場から口調は厳しく、固い。
だが時に、歳相当の言葉遣いもする。
「まぁ、俺も好きじゃないけどな。でも、仕方ないだろう?」
「承知済みよ。ここも長くは持たないし、寄りたくなくても寄るしかない」
「そぉ言う事だ。異存はねぇよな?」
「良いわ。それでいって頂戴」
腰を上げ、床を蹴ってドアに向う。
「どちらに?」
「どうせ連中には気付かれる。今の内に休んでおきたい」
「分かりました」
「頼んだよ」
ドアを閉め、エレベーターで下りる。
は何度目かの溜息をつき、士官室に足を運ぶ。
自室に着き、ベッドに身を投げるとは目を閉じた。
「……ミゲル……」
ストライクに撃たれたミゲル。
最後に言葉を交わしたのは、一体何時だっただろうか。
「またなって……言ったじゃんか」
ザフトの戦友を目の前で殺され、それでもストライクに牙は向けなかった。
己の立場ゆえ。
己の願いゆえ。
地球軍特殊部隊所属であり、ザフト軍特務隊フェイスである自分。
それとは別にある、もう1つの理由。
(出会う事はないと思っていたんだけど)
アスランの友人、キラ・ヤマト。
彼からキラの事は何度か聞いた事がある。
だがは、アスランに聞くよりも前にキラを知っていた。
もう、随分前に。
は寝返りをうって、眠りについた。
今日、ヘリオポリスで命を散らせた戦友を脳裏に浮かべながら。
だが、何故か涙は出なかった。