「ラミアス大尉!」
アークエンジェルに着いたマリューは、奥から自分を呼ぶ後輩に視線を向けた。
「バジルール少尉!」
「ご無事で何よりです」
「貴方達こそ、よくアークエンジェルを………おかげで助かったわ」
お互いの無事を確認した後、ストライクからキラが降りて来た。
誰もがパイロットは正規軍だと思っていたが、出て来たのは私服の子供。
「へぇ、こいつは驚いた」
独特のカラーリングが施されたパイロットスーツを着込み、ヘルメットを持って1人の男が集団に歩み寄る。
一瞬警戒したが、男はマリュー達の前で足を止め、敬礼をした。
「地球軍第七軌道艦隊所属、ムウ・ラ・フラガ大尉だ」
「地球軍第二中域第五特務師団所属、マリュー・ラミアス大尉です」
「同じく、ナタル・バジルール少尉であります」
「着艦許可を貰いたいんだがねぇ……艦長は?」
そう訊ねると、ナタルの表情が暗くなった。
そこで初めて、アークエンジェルの艦長の任を任されていた者の死を知り、事実上マリューが艦の責任者となった。
「兎に角着艦許可をくれよ、ラミアス大尉」
「えっ?あぁ、はい。許可します」
「どうも。それで、あれは?」
視線をキラ達に向け、マリューは慌てて説明をした。
その説明を受け、フラガがキラの前に立つ。
「な、何ですか?」
「君、コーディネイターだろ」
兵士達の間で、一瞬ざわめきが起こった。
「………はい………」
キラが正直に答えると、兵士達は銃を向ける。
それとほぼ同時に、整備士の1人が驚きの声を上げた。
「MSが1機、こっちに向ってるぞ!!」
「何ですって!?」
全員の目が近づいて来ているMSに向けられる。
「あれは」
呟いたのはマリューだった。
MSはマリュー達の前で着艦し、持っていたコンテナを横に置く。
その動きを呆気に取られて全員が見ていた。
そしてコックピットが開き、1人の少女が降りて来る。
「おいおい、また子供じゃねぇかよ」
誰かがそう言った。
(……あの人は……)
床に足を着け、突然吹いた風に黒髪が踊る。
少女の力強い緋色の瞳が、その場に居る者達を捕らえた。
「お前達、一体誰に銃を向けている?民間人に銃を向けるとは、地球軍も落ちたものね」
「……貴方……」
マリューが驚いた表情で声をかける。
少女は真剣な表情で敬礼をした。
「地球軍特殊部隊所属、・中佐。今回、アークエンジェル及びMSの護衛をするよう命を受けた」
「あっ、地球軍第二中域第五特務師団所属、マリュー・ラミアス大尉です」
「馬鹿ね、知ってるよ。久しぶり、マリュー、ムウ」
は小さく笑って手を下ろす。
「知ってるの?フラガ大尉を」
少し安心したマリューは、フラガとを交互に見ながら訊ねた。
「少しの間だけ、同じ部隊にいたから。そんな事より、フラガ大尉。貴方、また問題起こしているようだけど……何を仕出かした?」
僅かに目を細めて訊ねると、フラガは両手を挙げて頭を振った。
「仕出かしてない!俺は何もしてないって!!お前、久々に会ってそれはないだろう!?」
「なら、何故そこの者達は民間人に銃を向けている?」
「恐れながら中佐、彼はコーディネイターです」
ナタルがにキラの正体を言うと、は貴方の名前は、と聞いた。
「申し遅れました。地球軍第二中域第五特務師団所属、ナタル・バジルール少尉であります」
「そう、貴方がバジルール家の………根っからの軍家ね。なら聞くが、彼がコーディネイターであるとして、ザフトであると言った訳ではないんでしょう?此処は中立国・オーブが所有するヘリオポリス。コーディネイターとナチュラルが共存出来る数少ない国。そこにコーディネイターが居たとしても、おかしい事はないと思うけど?」
「しかしっ!」
「黙れ、少尉」
凍り付くような空気が広がった。
はナタルを見詰め、ナタルはを見詰めた。
いや、正確には身動きする事も、視線を逸らす事さえ出来ないでいた。
「もう一度言う。此処は中立国・オーブが所有するヘリオポリスだ。コーディネイターがいてもおかしくはない。相手は民間人で、ザフトではない。解ったら銃を下ろせ。もし撃てば、お前達のやった事は唯の人殺しだ。そして民間人と言うのは、ナチュラルであろうとコーディネイターであろうと同じ。その事が理解出来ないと言うのであれば、今すぐ此処から降りろ」
の目は本気だった。
「中佐の言う通りよ。銃を下ろしなさい。此処は中立のコロニーだもの。戦争が嫌で、此処に逃げて来たコーディネイターがいてもおかしくないわ。そうでしょう、キラ君?」
「えぇ……僕は1世代目ですから……」
「両親はナチュラルって事か…………いや、悪かったな。とんだ騒ぎにしちまってよ」
「場を弁えず、周りの空気を読まない貴方は、ある意味トラブルメーカーよ」
「そうきつい事言うなよぉ」
「民間人に対する暴力、暴言は罰せられる。覚悟は出来ているんでしょうね」
「ちょっ!?マジかよ!!」
「無論、彼がそれを望むと言うのなら………の話しだけど」
はキラに視線を向け、キラはの視線を受け止めた。
ナタルに向けていた視線とは違い、とても穏やかな瞳をしている。
キラは静かに頭を振った。
「僕は……平気です」
「そう。良かったですね、フラガ大尉。でも、それなりの罰は受けて貰う」
「えぇ!?」
「正規軍なら、解っている筈ですが?」
当然でしょう、と言いたげな表情でフラガを見て、次に視線を兵士達に向けた。
「整備班はセレス、ストライク、ゼロの補給整備を。ブリッジ要員と少尉、両大尉はブリッジへ。他の者は無傷のコンテナを掻き集めろ。外にはクルーゼ隊がいる。奴はしつこい。時間もそう多くない筈だ。もたもたするな!」
の指示に全員が返事をし、慌しく大人達が動き出した。
「バジルール少尉、悪いが彼らを居住区に案内して。手荒な真似はするな。彼らは民間人で、我々が巻き込んだんだ。丁重に対応しろ」
「はっ!」
小さくキラ達に笑いかけ、フラガ達に向き直った時は軍人の表情になっていた。