緋色が世界を見詰める

それに映し出された世界は荒れ、1粒の涙が流れた

紅く燃え上がる炎

声にならない嘆き

繰り返される過ち

終わることのない、戦争

平行線のまま

立ち尽くす事しか出来ないまま

憂鬱な世界

握り締めた冷たい指

トリガーにかけた細い指

時は止まる事もなく

緋色の瞳は微かに揺れ

緋色の月は全てを見下ろし

緋色の世界は涙の海で滲む























 人生の中で一番大変な1年だったと思う。

 平和な国、中立国オーブの所有するヘリオポリス。

 工業カレッジに戻ったのは、つい3日前の事。

 久々に戻った学校には変化もなく、相変わらずの平和な時が流れていた。

 授業を終え、モルゲンレーテに向かうとカトウ教授の部屋に6人の子供。

 内1人は離れた所で壁に凭れていて、目が合った瞬間に正体が分かった。

 そして残りの5人の内1人が、随分前から一方的に知っている。

「あの、カトウ教授ならいませんけど……」

 アメジストの瞳の少年――キラ・ヤマト――がそう言った。

「良いのよ。此処で作業をするように言われてるから。貴方達が教授のお手伝いをしている学生さん?」

 訊ねると、眼鏡をかけた少年――サイ・アーガイル――とキラが顔を見合わせた。

「そうですけど……貴方は?」

「貴方達と似たような者よ。カレッジの学生で、。貴方達の事は、教授から聞いているわ」

「へぇ〜そうなんだ。俺、トール・ケーニヒ」

「私はミリアリア・ハウよ」

「カズイ・バスカーク」

「俺はサイ・アーガイル」

「キラ・ヤマトです。宜しく」

「宜しく。さて、作業を中断させてしまったついでで悪いけど、貴方達はモルゲンレーテから出て行った方が良いわ。そこの貴方もね」

 視線を6人目に向けると、一瞬肩を震わせて睨み付けられた。

 はそんな視線を気にせず、片手を腰に当て6人目に言葉を投げる。

「何で貴方が此処にいるのよ」

「それは此方の台詞だっ!何だってお前が此処にいる!!」

 沈黙を守り続けていたが、の言葉でカッとなり言い返す。

「私は一応、此処の工業カレッジに籍を置いているんだけど?」

「そんな事を聞いているんじゃない!第一、お前は6歳の時―――」

 後に続く言葉が、爆発音と強い揺れで飲み込まれた。

 は腕時計に目をやり、小さく舌打ちをする。

「な、なんだぁ!?」

 激しい揺れは治まったが、電気が全て消え辺りは真っ暗となった。

「こっちに」

 が顔見知り――カガリ・ユラ・アスハ――の手を取り、非常扉に近づいた。

 サイが扉を開け、近くの階段を駆け上がる大人に状況を聞いた。

「何が起こったんですか!?」

「ザフトが攻め込んで来たらしい!」

「ザフトが!?」

 中立コロニーに何故、と疑問が浮かんだ。

「君」

「えっ?」

「この子、お願いね」

 キラにカガリを押し付けると、階段とは別方向に向かって走り出した。

 何故こんな事になっているのか。それはザフトが、此処ヘリオポリスで密に行われている事を嗅ぎ付けたからだ。

(一体何処の部隊よっ!)

 必死になって目的の場所に向かうが、予定外の展開に頭が整理しきれていない。

 行く道行く道、爆発のせいで道が塞がれていたが、遠回りをしてようやく目的のハンガーに到着した。

 中では数名の作業員達が残っており、入って来た人物を見て声を上げた。

中佐!」

「セレスで出る!お前達はアークエンジェルへ行け!!」

 作業服の男達は返事を返し、急いでハンガーから出て行く。

 セレスと言う地球軍のMSに乗り込み、慣れた手付きで起動させる。

 全てのシステムが立ち上がり、固定アームを無理矢理引きちぎった。

「早く外に出ないと」

 ペダルを踏み込み、ハンガーを出る。

 最初に見た光景は、数分前のヘリオポリスとは姿を変えた別世界。

 あちらこちらから煙が上がり、平和であった影は何処にもない。

「こんな襲撃、誰が許可したのよ!」

 ザフトの狙いが新型MSである事は分かっている。

 5機中3機は既にザフトの手に渡っただろう。

 だが、残り2機は此処モルゲンレーテのラボにある。

 ストライクとイージス。

 その2機が、敵対するように立っていた。

「ジンが1機?あれはミゲルの……まさか、襲撃はクルーゼ隊!?」

 ふら付くストライクを見ると、あれに乗っているのはナチュラルだろう。

 作戦が失敗したのかもしれない。

 紅でカラーリングされたイージスが飛び立ち、それを追う為ペダルを踏む。

 通信回線を開き、相手に声をかけた。

「イージスに乗るパイロット。応答しなさい」

『その声、もしかして!?』

「やっぱり……貴方、アスラン・ザラね」

 イージスは飛び立つのを止め、セレスと正面から向き合った。

「今回の襲撃作戦、クルーゼ隊が担当する事になっていたのね」

『あぁ、から得た情報を元に作戦を立てて……そんな事より、も一緒に来るんだ!』

「何言ってるのよ。私は任務で此処に居るのよ。そんな馬鹿な真似が出来ますか」

『しかしっ』

「良いから行きなさい。それと、此処で私と会った事は他言無用よ。クルーゼにも言わない事」

『何故…』

「任務なの。それ以上は言えない。分かったわね」

『………了解』

「さぁ、早く行って。怪しまれるわ」

『あ、あぁ』

 イージスはセレスの前から飛び立ち、あっと言う間に姿を消した。

 はセレスを反転させ、辺りを見渡す。

「さて、私はどうしようかしら」

 ストライクとジンが未だ交戦中だが、気付けばストライクの動きがかなり良くなっている。

「OSは不完全な筈よ。一体誰があれ……っ!?」

 見間違いであれば良いと、そう思った。

 ジンが自爆し、ストライクが吹き飛ばされる。

「ミゲルっ!?」

 思わずジンのパイロットの名前を呼んだ。

 はモニターでミゲルが脱出したかどうか、確認をする。

 すると、見慣れた緑のパイロットスーツを着た人間がいた。

「はぁ〜……心配させないでよ」

 安堵の表情を浮かべ、セレスをモルゲンレーテ奥に向って飛び立った。