島にもたらされた新たな風。
風は踏み出す者達の背中を押し、選択の時を与える。
答えを出すのは自分。
風は人々を包み込み、決意を決めた者は風を振り払う。
選んだ道。
未来への扉。
そして人々は、新たな力を手に入れる。
ミサイル攻撃をものともせず、フェストゥムは3機のファフナーに向って急接近した。
「マークフュンフはイージスで敵を食い止め、マークアハトが右側から回り込め。マークドライは敵のコアを確認し、破壊しろ!」
総士の指示に従い、衛がイージスを展開させる。
敵は一直線にマークフュンフの元に突撃し、マークアハトがガルム44で攻撃をする。
その攻撃が止むと、敵の身体から顔が浮かび上がった。
「逃げろ!剣司!!」
顔が2つに割れ、大きな目がマークアハトを捕らえる。
目からプラズマが発生し、剣司を襲った。
「うわぁぁぁぁぁ!!!!」
攻撃を食らったマークアハトは音をたてて倒れ、反対側にいた咲良が叫んだ。
『よせっ!体制を!!』
「よくもぉぉ!!」
攻撃を止めようとする総士の言葉を耳にいれず、接近してピラムで攻撃をする。
だがそれは敵に読まれ、簡単に交わされてしまった。
マークドライは敵からの攻撃を交わすことも出来ず、吹き飛ばされてしまった。
イージスで敵を食い止めていたマークフュンフ。
展開中は攻撃が出来ず、直接攻撃を食らった。
その打撃がシステムに入っていた総士を襲い、灯台から見ていたを襲った。
崩れそうな身体を何とか持ち堪えさせ、戦いを見続ける。
道生とカノンが乗った機体も遅れて来たが、ノートゥング・モデルでも敵わない相手に勝てる筈がない。
「強すぎる」
「目標、再び灯台へと向っています!!」
「皆城乙姫は?」
「移動していません!」
モニターに映し出される灯台。
乙姫の目の前に、フェストゥムが姿を見せた。
「……そう……あなた達も選んだの。会話のない…………世界。何もかもいなくなる………………無の道」
目が開き、乙姫を捉えた。
「……………でも……………………選んだのは…………あなた達だけじゃないよ?」
瞳を閉じ、自分で道を選んだ者達を思い浮かべる。
はそっと乙姫を見て、乙姫の前で片腕を広げた。
フェストゥムと乙姫の間を作るように。
そしての視界の端に入った女性、千鶴。
乙姫を抱き寄せ、敵を睨んだ。
それに驚く乙姫と。
「乙姫ちゃん!君!逃げるのよ!!」
逃げても助かる確率は低いと、一番良く知っている筈なのに。
それでも千鶴は2人に逃げると言った。
「………千鶴さん」
「………ありがとう。でも大丈夫……………………おかえり…………」
風を切る音が聞こえた。
目の前にいたフェストゥムが白い機体に蹴られ、その場から吹き飛ばされる。
機体は竜宮浜に着地し、ゆっくりと起き上がった。
「…………何だ………あの機体はっ」
突然の登場に驚く史彦達。
広げていた腕を下ろし、は静かに目を瞑った。
モルドバで作り出された機体、ファフナー・ザルヴァートル・モデル。
「が、ガーディアン・システムがファフナー部隊とのクロッシングを解除!あの機体にクロッシングしています!!」
「何だとっ!?」
ガーディアン・システムのモニターを見ても、3機のクロッシングは完全に解除してある。
史彦と総士は驚きを隠せない。
新たな邪魔者が現れたと理解したフェストゥムは、強いプラズマを発生させた。
真っ直ぐ来るプラズマを、白い機体は片手で受け止めた。
「受け止めた!?」
衝撃を受けた総士だから分かる。
あのプラズマを受け止めることなど不可能に近いと。
だがそれを、あの機体はやってのけた。
敵はプラズマ攻撃が利かないと分かると、無数の固体を生み出し、機体に目掛けて飛び付かせる。
「あれはさっきの!?」
竜宮山頂を自爆した時にも使われた方法。
道生は叫んだ。
「やばい!吹っ飛ぶぞ!!」
固体が集まれば、それだけ爆発の威力も増す。
山頂を狙った時のように爆発するかと思われたが、異変が起こった。
「敵のコアが…………内部に向かって消滅して行きますっ」
「まさか、フェストゥムを?」
「逆に同化してるのか!?」
飛び付いた固体が姿を消し、白い機体が同化してしまった。
フェストゥムは身の危険を感じたのか、再び姿を消す。
「目標、また消え始めました!」
「ソロモンの反応消滅」
索敵を無効化にする為、姿を消した敵を探し当てることは出来ない。
懸命に弓子達が探すものの、敵を見つけるまでは至らなかった。
「探せば見付かるよ、総士」
空に呟かれた言葉はシステムを通り、ジークフリードにいる総士に届く。
「乙姫!?」
探せば見付かる。
そう島のコアが告げたのなら、それは正しいと思っても間違いではない。
(振動、各種上げ。温度、電子、電波。空間移送。これはっ!?あの機体が衝撃を与えた時に出来た傷)
モニターに映し出された僅かな光り。
それは姿を消したフェストゥムに付けられた傷。
隠しても隠し切れないモノ。
総士は直ぐにガーディアン・システムを通して通信を入れた。
「パイロット、聞えるか?敵の位置は捕捉した。奴を倒してくれ」
此処で敵を倒すことが出来るのは白い機体だけ。
誰もがそうだと思った。
パイロットが誰であるかは、今は考えている場合ではない。
倒す。
それが終わってからのこと。
それからで良い。
そう思った。
声を、聞くまでは。
「……………………総士」
忘れる訳もない。
懐かしい声。
少し前まで名前を呼んでいた。
「…………かず………………き…………?」
島を出て行った幼馴染。
モルドバにいた、真壁一騎の声。
「システムとクロッシングして…………マークエルフと同じように出来る筈だ」
敵を灯台から突き放した後、少しだけ機体が軽くなったような気がした。
身体の疲れも同じように軽くなり、少し焦っていた気持ちが嘘のように安定している。
この感覚は、前にも何度か体験していた。
が司る、ガーディアン・システムとのクロッシング。
ガーディアン・システムがクロッシング出来るのなら、ジークフリード・システムも同じようにクロッシング出来る筈。
「………だから……………だったのか………?」
俯き、歯を食いしばった。
3機のファフナーとのクロッシングを解除し、白い機体にクロッシングした理由。
見たこともない機体に、可能性をかける為クロッシングしたのだと思った。
でも、実際は違っていた。
白い機体に乗っているのが一騎であると、最初から知っていた。
だからクロッシングをしたのだろう。
彼ら、ガーディアン・システムを司る者達は。
「………………今更お前が………………何を………………」
島を出た奴が、再び戻って何を。
責められるのは分かっていた。
一騎はゆっくりマークアハトの銃を取り、同化する。
敵を倒すことが第一優先と考えるべきところを、総士は自分の帰還で冷静判断を失っていた。
そうさせてしまったのは自分。
敵を倒さなければならない。
だが、それは1人でするものではない。
「総士、お前はこの島だけが楽園だったって言った。俺はその意味も、お前が考えていることも解らないまま…………ただお前が言う通り戦った。だけど今は…………少しだけ………………解った気がする」
少なくとも、島を出る前の自分と比べたら僅かでも解った気がする。
そして知った、相手の気持ち。
「………何が………解った」
島を出ただけで、何が分かった。
地獄の世界を見て、何が。
「……………お前が…………………苦しんでたことが……………俺達が何も知らない時から、お前は島を守ろうとしてくれた。翔子の時も、甲洋の時も。お前1人で痛みを背負ってた。お前はけして…………」
けして、冷たい奴ではない。
けして、変わった訳ではない。
けして、見殺しにした訳ではない。
幼少の頃から伝えられた定め。
幼少の頃から伝えられた島の真実。
死と隣り合わせの世界。
何も知らない子供。
真実を知った自分。
引かれた境界線。
作られた大きな壁。
吐けない弱音。
島を守る為、犠牲となることを選んだ。
汚れ役を負うことも仕方がないと。
システムを司る者以外には、理解されないと。
そう、思っていた。
―――お前1人で痛みを背負ってた。
胸のうちに溜めていた心痛が溢れ出し、凍り付いていた総士の心を溶かす。
忘れていた涙が、総士の頬に流れた。
『…………その機体の識別コードは?』
「マークザイン」
『クロッシングの為に、機体を登録するっ。5秒待て!』
「……総士?」
『直ぐに済む』
起動状態で手を抜いた為、システム内でアラートが鳴り響いた。
涙を拭い、再び手を入れる。
総士が顔を上げた。
「エンロール完了。クロッシングを開始する!」
目を瞑り、マークザインと一体化になっている一騎を受け入れた。
それは一騎も同様、ジークフリード・システムに乗る総士を受け入れる。
『…………一騎、僕の見ているものが見えるか?』
ゆっくりと開けられた瞳。
「あぁ、見える!」
『行くぞ!!』
ガルム44を同化した一騎は敵に付いた傷に焦点を合わし、引き金を引いた。
その威力は計り知れなく、CDCにいる史彦が愕然とした。
「あの武器は?」
「マークアハトの、ガルム44の筈ですが」
「何と言う威力だ」
破壊力の計測器が測定不可と出ている。
ジークフリードとガーディアン・システムがクロッシングした状態でこの威力。
マークザインはルガーランスを取り、それも同化した。
敵のコアを完全に破壊する為に。
「であぁぁぁぁぁぁ!!!!」
敵に目掛けて大きく振り下ろし、敵はプラズマ攻撃でそれを迎え撃つ。
だが、威力はマークザインが上。
プラズマ攻撃を跳ね飛ばし、敵のコアを完全に破壊した。
消滅した時に出来た強い風が竜宮島を襲い、灯台に立っていた乙姫達の髪が強く靡いた。
呆然とする大人達。
肩で息をする一騎。
ソロモンの反応が消え、敵の消滅を知らせた。