別れ。
 覚悟を決めた人は言葉を交わし、そうでない者は叫ぶ。
 始まり。
 それは新たな世界への導。
 あなたは、そこにいますか?










 誰も居ないラボの中、日野洋治は先に脱出したミツヒロと通信を取り合っていた。

『とっくにコアごと脱出しているものだと思っていたよ、洋治。成果はこれからだ。フェストゥムを絶滅させる力を、我々が作り出してみせるのだ』
「ミツヒロ、ザルヴァートル・モデルは可能性を開く扉だ。フェストゥムを滅ぼす為だけのモノではない」
『馬鹿げたことを。何の為のファフナーだ』
「それをこれから試すのだよ。かつて日本から発動したミールから、我々が採取したコアの1つ。私が此処で使わせて貰う」

 ファフナー・マークエルフのコアを移植したザルヴァートル・モデル、マークザイン。

『それを扱えるパイロットなど。ふん、コアごと滅ぶが良い』
「滅びをないどこに、新たな希望が芽吹くのだよ。我々の子供達のようにな。さらばだ、ミツヒロ。お前と共に歩んだ5年間、決して悪いものではなかった」
『地獄でな、日野洋治』

 通信が途絶えた。

「まさか、Dr.日野が裏切るとは。折角のコアを」

 ミツヒロの隣に座っていたギャロップが、2人の会話を聞いてそう言った。

「心配要りません。もう1つのコアが時期に回収されます。ノートゥングモデルを越える機体をお見せしますよ」

 そう、もう1つのコア。
 それさえ手に入れれば、最強のファフナーを作ることが出来る。
 ミツヒロにとってのファフナーと、洋治にとってのファフナーは違う。

「さぁ、かつて真壁紅音だった者よ。この機体を、是非君からアルヴィスの子供に渡してやってくれ」
「我々は、私を真壁一騎に会わせないだろう」
「機体を渡すだけだ。アルヴィスの子供が何処にいるか、君ならすぐに分かるだろう」
「1人は陸に。1人は空に」
「何?一騎君の他に、誰か此処にいるのか?」
「これから来る。近付いている」

 遥々、竜宮島から来た人間が。

「地下施設か。どうやって入ったものやら」

 モルドバに来るのは初めてである。
 着陸出来る様な場所もなく、何とか入り口を探していた所で通信が入った。
 それに答える真矢。

「は、はい!」
『おぉ良かった。まだ無事に飛んでいるな』

 見覚えのある顔だった。

「洋治!?何で俺達が来ることが分かった!?」
『かつて我々の同胞だった者の導きだ。これから着地誘導マーカーを送る』

 モニターにモルドバ基地の地図が浮かび、着地出来る場所が示された。
 恭介はそれに従い、機体を降下させる。
 丁度その頃、一騎は基地内で戦闘に参加していた。
 何時しか一騎が中心となり、指示を出している。

「危ない!散れ!!」

 見たことのないフェストゥムが現れ、逃げ遅れた機体が捕まる。

「脱出しろ!」
『無駄だ!もう動けない。気にするな、俺達は兵士だ。命は惜しくない!』

 顔も名前も知らない男の言葉に、一騎は息を飲む。
 そしてフェストゥムに変化が起こった。

「顔が!?」

 目が現れ、口が現れる。

「あなたは、そこにいますか?」

 今迄聞いてきた声とは違う。
 その声に一騎は答えた。

「あぁいるさ、此処にな!!」

 生き残った機体が一斉に銃を構え、敵に向って撃つ。
 これが人類軍の戦い。

「行くぞ、お嬢ちゃん。しっかり付いてきな!」
「はい!」

 知らない土地。
 知らない世界。
 そこに足を踏み入れた真矢。
 恐怖はない。
 ただ、連れて帰るだけ。

(待ってて、一騎君!)

 皆城総士と、に合わせる為。
 遠見真矢は、フェストゥムの襲撃を受けている基地の中に入って行った。




                     ◇    ◆    ◇




 CDCのドアが開いた。
 2人の兵士が銃を向け、見知った顔が入って来る。

「狩谷先生」

 綾乃の呼び声に由紀恵は反応しない。

「こんな形で再会するとはな、バーンズ少佐。いや、今は……」
「大佐だ。お前が司令官をする位には出世をしたよ、真壁」

 過去、自衛隊で顔を会わせていた2人。
 再会はないと思われていたが、まさかこんな所で出会うとは思ってもいなかった。

「島に来た目的は?」
「お前達が持ってる玩具を欲しがっている者がいてな。是非、譲って欲しい」
「やはりコアか」

 人類軍にとってファフナーと島のコアは魅力的だ。
 その両方があれば、敵を倒すことが出来る。

「此処にいる狩谷が聞きたいことがあるらしい」

 バーンズの後ろに控えていた由紀恵が、バーンズの前に出る。

「裏切り者が、よく戻って来られましたね。狩谷先生」
「人類に対して、どちらが裏切り者なのかしら?これだけの戦力を隠し持っていたあなた達と、人類軍にそれを知らせた私と」
「一騎は今、どちらに付いているんです」
「真壁君?さぁ、どうせ生きていないわ」

 モルドバが放棄されると、総士達は知らない。
 そしてモルドバには、フェストゥムを倒すだけの戦力は残っていない。

「それより、岩戸を開放するなんてどういうこと!」
「開放?」
「ブリュンヒルデ・システムは、空っぽだったわ!」
「なっ!?何だって!!」

 島のコアであるブリュンヒルデ・システム。
 そのコアが、ワルキューレの岩戸を出た。
 岩戸から出たコア―――皆城乙姫は、と別れた後、山の中を歩いていた。
 そこで出会った1人の少女、立上芹。

「くそっ、人類軍め。俺達の島をっ」
「一体、どのくらいの人数が上陸してるんだ」

 アルヴィスに逃げ遅れた人が山の中に隠れ、様子を伺っている。

「あ〜あ、折角林の地図作ってクワガタ採りに行く予定だったのに」
「クワ……ガタ?」
「そっ、クワガタ。あたし生物部なの。皆鳥や魚を調べたがるけど、やっぱ虫だよ」
「……生物…………鳥……魚……星……」

 ゆっくり立ち上がる乙姫。
 そんな乙姫に芹が声をかける。

「あっ、じっとしてた方が良いよ」

 その忠告を聞き入れず、乙姫は空と海を見詰めた。

「…森……風……空……海……光……命……」
「あのぉ、ちょっと?」

 岩戸を出て、初めて見る世界。
 初めて言う言葉。

「では、コアの行方は貴様らでは分からんと言うのだな」

 コアが岩戸を出たと知った総士達は、開放したのは自分達ではないことを告げ、行方は分からないと言った。

「彼女が目覚めたと言うのなら、僕らが制御出来る相手じゃない。勿論、あなた方にも」
「彼の言っていることは本当かね」
「あぁ。我々は彼女の意思に従うしかない」
「嘘よ。コアを何処に隠したか言いなさい!!」
「まぁ待て。島の機能が生きているのなら、コアはどこかに存在している筈だ。24時間以内にお前が見つけろ、狩谷」
「分かりました」
「こいつらを連れて行け。此処は、我々が占領させて貰う」

 勝ち誇った顔で史彦に言うと、外で待機していた兵士達が銃を突き付けてCDCから連れ出す。
 向かった先は少し広い休憩室、ファーストルーム。
 無理矢理部屋に入れられ、閉じ込められた。

「島、取られちゃったわね」
「コアがいなければ、取られたとは言えないわ」

 まさか勝手にコアが逃げ出すとは思ってもいなかったが、これは不幸中の幸いかなのかもしれない。
 そんなことを思っていると、外からロックが解除されドアが開いた。

「剣司!?」
「咲良!」

 頭の後ろで手を組む3人。
 その後ろには兵士が立っていた。

「中へ入れ!」

 手を下ろし、中に入る3人。
 母親である綾乃と澄美が安堵の声を漏らした。

「皆、無事だったのね!」
「羽佐間先生は?」
「容子先生だけ、どっか連れてかれちゃった」
「奴等の手で、島のファフナーを動かすつもりでしょうね」
「島のコアもファフナーも、そう簡単には使えん筈だ」
「ファフナーは使えるかもしれない」

 咲良の声に、史彦が目を細めた。

「あいつが……が此処に来てる」
君が!?それ、本当なの?」
「さっき会ったんだ。あいつ、結構上の方にいる感じで……兵士達に指示出してた」

 史彦と総士が顔を見合わせる。
 島を出て言ったのは一騎と由紀恵だけではない。
 も、2人を追うように出て行った。

「兎に角、今の状態では何も出来ない。暫く様子を見よう」

 司令、史彦の言葉に全員が頷いた。