嵐が来た。
それを打ち破る力。
竜宮島に新たな戦士が加わり、島を守る竜が現れる。
「状況!!」
「4時の方向!距離785に重力源反応!!」
「目標………えっと……進路740で島に近づいています」
未だ慣れないCDCの仕事に、真矢は戸惑っていた。
だが、現実はそんな真矢を待ってはくれず、時は刻々と進んで行く。
「ソロモンに応答あり!スフィンクス型と断定!!」
島に接近しつつあるフェストゥムの映像が出され、息を飲んだ。
「……………何時もと違うな…………」
『ファフナーを、トリプルトップで展開します』
「デビルレイを使って、進行経路上の陸地で迎撃させろ」
『ブリュンヒルデ・システムの援護なしで?』
「そうだ。敵は未だ島との距離を開けたままだ。これまでと一味違いそうだ」
『はい』
パターンが分からない分、初めて戦う2人のことが心配である。
「急げ!20秒で換装終わらせろ!」
「デビルレイの積み込みもあるぞ!ケージアウトのチェックも忘れるな!!」
「分かってます!」
保の声が何時もより大きいような気がするのは、息子が出撃するからかもしれない。
ファフナーを見上げ、心の中で祈った。
(頼んだぞ。子供達を、無事に連れ戻してくれ)
自分に出来ることは、ファフナーの調整だけ。
そして、見送ることだけだ。
「3機のファフナーは輸送機デビルレイへと格納され、目的地へ移動する。敵と接触する前に、マークフュンフを先頭に降下。トリプルトップで展開しろ」
短時間で作戦を考え、3人に指示を出す総士。
指示を出し終えると、マークフュンフのパイロットである衛から声が上がった。
「総士!俺のコードネームは…………ゴウバインだ!!」
変な仮面を被って、衛はそう言った。
此処にがいたのなら、仮面に対しても名前に対しても、何か言っただろう。
だが、その彼女は此処にいない。
いないが、ガーディアン・システムは作動している。
暫くの沈黙の後、口を開く。
『……………ファフナー・マークヒュンフ………ケージアウト!!』
「うおぉぉぉ!!ゴウバイン!!!」
これも精神の変化だと言うのなら、仕方がないのかもしれない。
しかし、総士は内心衛の変化を認めたくなかった。
「デビルレイ、発進スタンバイ。オールグリーン」
「2名が変性色テストをせずに搭乗している。シナジェティック・コードの影響で、彼らの精神に変化が起こるか、予想出来るかね」
「咲良さんは、先日の出撃のさい、非常に攻撃的な意識に支配されていました。残り2名も、何らかの変化が現れるかと」
一騎とは違い、他のパイロットにはそれぞれ違った変化が起こっている。
それらを考慮した上で作戦を考えねばならない。
『進路クリア』
『パイロットの精神の変化に、注意してくれ』
「解っています」
3人の個人データが左右に表示され、正面には敵の動きが文字化される。
(一騎なら、そんな問題は起きないのに)
精神の変化は、連結者にとって慣れるまでが一番厄介である。
特にジークフリード・システムは、全機のパイロットと連結する。
それぞれに合わせた対応を瞬時で読み取り、伝えなければならないのだ。
「後2分で目標の諸島に到着する。射出後4秒で、各スラスター点火。予定された配置まで動いて待機せよ。命令があるまで、絶対に手を出すな!」
各自に指示を出すが、返って来る声はない。
緊張しているのかとも思ったが、そんな様子はなかった。
「デビルレイ、前方20km地点で重力示!このままだと直撃します!!」
「緊急離脱!コンテナ切断!!」
コンテナが切断され、3機が地上に着地する。
すると敵は、更に島との距離を縮める為接近する。
「第1ヴェルシールドに直撃!」
「………遠距離から攻めるタイプか………」
今までとは明らかに違う、遠距離タイプ。
これでは苦戦してしまうだろう。
「………もうやだぁ……母ちゃん……帰りたいよぉ………」
情けない声を出す剣司。
「くっ!………フェストゥムめぇ!!」
攻撃的な性格に変化した咲良。
「上等だ!!」
戦う気満々の衛。
これら3人を上手く使う為には、総士の的確な判断が必要である。
「ファフナー、着地確認。各パイロット、バイタルモニター出します」
「やはり、パイロットの精神状態が大きく変化していますね」
テストをするまでもない。
パイロットには精神の変化があって当たり前なのだ。
『総士君、敵は先に手の内を探して来た』
「確認しました。それらの情報を元に、作戦を立て直します……っ!?衛、何をする!!」
逸早く衛の様子に気付いた総士。
衛はワイヤーを2機に向けて放った。
『総士、咲良、剣司、聞いてくれ!俺に考えがある!!』
「何?………待て、マークヒュンフ!!」
『俺は……………ゴウバインだ!!』
勝手にコードネームを付け、あくまでも自分は漫画の世界に登場するゴウバインだと主張する衛。
けして漫画の世界のヒーローにはなれないが、気分はそうなのだろう。
『俺が敵にわざと撃たれる。その隙に、咲良と剣司が敵を倒す!いいな!!』
『ほんとに出来るのかなぁ………そんなこと』
『敵を倒せるならなんだっていい!早く戦わせて!!』
「止めろ、マークフュンフ!お前のイージス装備で敵の攻撃を防ぎきれなかった場合、全員が危険な状態に!!」
おまけに、ファフナーまで失いかけない。
そうなれば、島は完全に滅びる。
『………例え勝てる見込みが0%でも………明日の朝日を信じて戦う………それが機動サムライ!!!』
まさかとは思っていたが、衛は漫画の世界と現実世界を混ぜてしまっている。
つまり、自分はヒーローなのだ。
正直言って、疲れる。
「……滅茶苦茶だ………勝手なことをするな………全員コックピットから叩き出すぞ!」
『悪い作戦ではない……やらせてやりたまえ』
「しかし!!」
失敗する可能性の方が高い。
島の安全、ファフナーとパイロットの生存を考えるなら止めた方が良い。
「精神の変化だ。本来なら咲良君のいる位置に、衛君がいると思え。イージス装備の物を最前線に立たせた戦法を考えろ。敵は長距離用の直線攻撃だ。マークフュンフなら、十分交わすことが出来る」
チラリと綾乃の方を向くと、彼女は小さく頷いた。
「今は、パイロット達を信じることだ」
『………了解!』
パイロットを信じる。
それはこれまでの戦闘の中で、総士がしなかったことだ。
してきたつもりであって、出来ていた訳ではない。
『目標!ファフナー着地地点に向け、移動!!』
『第1ヴェルシールド、消滅!!』
「ファフナー全機、散開!!」
衛の言うやり方で作戦を立て直し、総士はそれぞれに指示を出す。
「敵の攻撃と同時に、マークアハトが3時の方向から銃撃!その間に、マークドライが敵の背後に回り込め!!」
各機に作戦内容が伝わり、衛の乗るマークフュンフが前に出る。
「行くぞ!今だ!!ワン!!!」
イージス装備をフル活動で使用し、剣司のマークアハトが崖の上から敵を狙う。
「ツー!!」
敵に命中したが、攻撃を受けて崖から崩れ落ちた。
その間、回り込んでいた咲良のマークドライが背後から襲う。
「スリー!!!」
ファフナーに電撃を食らわし、最後はドライの手でコアを貫いた。
フェストゥムは金色から色が変わり、マークフュンフがそれを空に向って投げる。
「ゴウバインスマッシュ!!!」
敵は空で消滅し、島の被害も最小限で抑えられた。
恐らく、これが一番被害の少ない戦いだったかもしれない。
「敵の消滅を確認!全パイロット、無事です!!」
「………咲良…………無事で良かった………」
無事の報告を聞き、心底安心する澄美。
「…………上出来だよ………バカ息子………」
綾乃は口元を押さえ、息子の戦いぶりを褒める。
「はぁ、良かったぁ」
友達が無事、島も無事。
このことに喜びを感じた真矢だが、内心では少し複雑な思いがあった。
(皆必死で戦ってるのに……)
自分は、CDCの中で戦いを見ているしか出来ない。
それがどうしても悔しかった。
「あなた!衛が………衛が!!」
「あぁ!!」
「やりましたね!おやっさん!!」
「あぁ………やりやがった!衛の奴、やりやがった!!」
ブルクで戦闘を見ていたメカニック班は、チーフである保の息子、衛が戦闘で活躍し、無事であることに大喜びしていた。
「本当に………無事で良かった」
同じようにその場にいた容子は、素直に喜びの声を上げる。
「あぁ………羽佐間さんの前で…………すみません」
「いえ、私も本当に嬉しいんです!衛君を、うんと褒めて上げて下さい」
「………ありがとう………」
保と千沙都は容子に向って頭を下げた。
戦闘は無事終了し、3機は島のブルクに収容された。
パイロット達は両親と再会する暇もなく、総士に連れられミーティングルームに押し込められる。
「なんでこんな所に入らなきゃなんないの!?」
「俺達、島を守っただろ!!」
そう文句を言うと、外にいる総士がモニターに現れた。
『独断で行動しようとした罰だ!そこで頭を冷やせ!!』
いくら司令が許可したとは言え、指揮官である総士の命令を無視したのは問題だ。
それなりの罰は覚悟して貰わなければならない。
「確かに総士の言う通りだな」
「衛!?お前、まだそんなもんかぶって」
「お前の射撃がへたくそだから、総士は満足してないんだ!少しは反省しろ!!」
ビシッと剣司を指す衛。
何時もと違うのは手にとって分かる。
「ちょっと………衛!!」
「お前も!もっと素早く動け!!こののろま!!」
咲良と剣司はお互い何時もと違う衛に戸惑ったが、今の言葉で頭にきた。
衛を締める為手を伸ばす。
「あだだだだだだだ………あれ?………何で……僕達こんな所にいるの?」
全く覚えていない衛。
何時も仲の良い2人に目を向け、顔を引き攣った。
「どうしたの?そんな怖い顔して………やだなぁ………」
それからと言うもの、2人は衛を散々懲らしめ、衛は悲鳴を上げるだけだった。
それを外で聞いていた総士は、今日の戦闘で酷く疲れ、深々と溜息を漏らす。
足はそこから史彦の元に向かい、今回のことに付いて報告と疑問をぶつけることにした。