言葉は、人に伝える為の手段だった。
 そして何時しかそれは、人を傷付ける凶器にもなった。
 けれど、人に想いを伝える手段は言葉しかない。
 交わされた約束。
 交わされた会話。
 交わされた想い。
 あなたの想い、相手に伝えましたか?
 あなたの想い、相手に伝わりましたか……?










 マークエルフのコックピットがファフナーの中に移動した。

『LDA全開します。第1、第2ゲリッター、ロック。第3、第4ゲリッター、ロック。ファフナー、ケージアウト!』
『AVCリンドブルム、ターンテーブルへ!トランスファーブロック、移動』
『ファイナルステージD、チェック!オールグリーン。ファフナー、接続位置に固定!』
『接続アーム、ロック!』

 オペレーターを担当している綾乃と澄美の声を聞きながら、総士はジークフリードを起動させた。
 周りが緋色に包まれ、モニターに自分のシナジェティック・コードが表示される。

「今度は救出作戦だ。新国連の艦隊を救助に向かう!」
『人を助けるんだな!?』

 返事はなかった。
 総士自身、新国連を助けてマークゼクスを奪われるより、消えて貰った方が島の為になると思っている。
 だが、一騎は助けるつもりでいる。
 それは、システムを通して伝わってくる思い。

「……一騎、出撃する前にGシステムの説明だけしておく」
『Gシステム?』
『さっき言った、ガーディアン・システムの略よ。ファフナーと島を一体化することが出来て、島は防衛の強化がされ、ファフナーは機動性が高くなる』
「ジークフリードと違って、直接脳の皮膜神経内が繋がっている状態ではない。だが、ファフナーと一体化になっている一騎とは、ファフナーを通してとも繋がっている状態だ」
『えっと……それってつまり……』

 2人が何を伝えようとしているのか、一騎はよく解っていない。
 いや、説明は理解している。
 理解しているが、結局何を言いたいのか解らない。

も僕も、一騎と共にいるってことだ」
『早くて簡単に言えばね。私は島ともクロッシングしているから、一騎ばかりを手助け出来ない。期待はしないで』
『解った』
『リンドブルム、エンジンスタート』
『カタパルト開放!』
『各部正常に稼動。全システム、異常なし!』

 飛び交う声に耳を傾ける3人。
 総士はそっと息を吐き、正面を見詰める。

『準備は良いか、一騎、
「あぁ」
『大丈夫よ』
『よし。リンドブルム、発進!』

 加速を付け、カタパルトから空に向かって飛ぶ。
 モニターに地図が出され、新国連の輸送艦隊がいる所が点滅していた。

『ミサイルだけじゃフェストゥムを倒せない。急いだ方が良いわ』

 リンドブルムがさらにスピードを上げて目的地に向かう。
 の言う通り、ミサイルはフェストゥムに傷を付けることさえ出来ない。
 護衛艦は既に沈没し、ギャロップは命の危険を感じていた。

「まだなの!?API1からの救援は!!」

 必死で逃げようとするが相手はフェストゥム。
 逃げ切れる訳がない。
 フェストゥムは最後に残った船を掴み、ブリッジを覗き込む。

『あなたは……そこにいますか』

 問いかけられたくもない言葉に、ギャロップは目を見張った。
 だが、船を掴んでいたフェストゥムに何かが当たったらしく、水飛沫を上げて海の中に沈んだ。
 リンドブルムが輸送艦隊の所に到着し、彼らを助けたのだった。

「リンドブルム、輸送艦隊救援接触点に到着した模様です」
「負傷者の収容に備え、医療班を待機させろ」

 言い終えた後、ソロモンの反応を示す音が響いた。

「そんな!?またソロモンの予言なの!?」
「フェストゥムの出現位置は何処だ!」
「竜宮島直上!10,000mです!!」
「直ちに、第2ヴェルシールドまで展開しろ!君!!」
『ヴェルシールドを強化します。島民を緊急退避させて下さい!』

 ヴァッフェラーデンが地上に現われ、島に緊急退避の放送がかかる。
 新手のフェストゥムは第1ヴェルシールドに突っ込んだ。

「っ!」
『第1ヴェルシールド、波長干渉しています!』

 モニターに第1ヴェルシールドの出力が表示され、波長が干渉していると聞かなくても分かっていた。
 だが、此処で易々と上陸して貰っては困る。

「島民の避難は!?」
『全体の、62.8%が完了!』
「第1ヴェルシールドが………持たないっ」
『波長、同期しました!』
『第1ヴェルシールド突破!目標、第2ヴェルシールドまで後2秒!』

 シールドが破られ、第2ヴェルシールドに突っ込もうとするフェストゥム。
 次は頭からではなく、足で破壊しようとしていた。

「そう簡単にっ!!」

 第1より第2ヴェルシールドの強化を強め、島民が避難出来る時間を延ばす。
 今はまだ、実戦投入出来るパイロットは一騎以外いない。
 だから、1分でも1秒でも延ばさなければならなかった。

『第2ヴェルシールド、持ちません!』

 元々膨大なエネルギーを必要とされているもので、そう長い時間は張ることが出来ない。
 フェストゥムはヴェルシールドの波長と同調し、突破してしまう。

『目標、竜宮山頂に激突します!質量測定が間に合いません!!』
『衝撃に備えろ!』

 激突されれば、山頂の姿は変わってしまうだろう。
 そればかりか、大きな被害をもたらす。

「間に合えっ!」

 数機のノルンが山頂に到着し、衝撃を和らげる為にシールドを張る。
 フェストゥムはシールドを突き破ったが、威力は少しだけ落ちた。

「きゃあぁぁっ!!」
『目標、本島中央ブロックに降下!』
『被害状況確認!フェストゥムは!?』
『スフィンクス型と思われますが、今までのデータにはないタイプです!』

 飛び交う声は焦りと不安に満ちていた。
 フェストゥムに島の侵入を許してしまった以上、迎撃システムを使って食い止めなければならない。
 若干痛みが走るけれど、それを気にしていたら島が破壊される。
 さらにノルンを操り、フェストゥムに向かって攻撃を開始した。
 だが、ノルンも迎撃システムと同様フェストゥムには敵わない。
 次々に破壊され、姿を消していく。

『命令変更だ!竜宮島に新手のフェストゥムが出現した!!』
「竜宮島に敵!?」

 島を守る巨人は1機しかない。
 それに対し敵は2体。
 海の中に沈んでいたフェストゥムが飛び出し、艦の行く手を阻む。
 一騎はリンドブルムに積まれているミサイルを使って攻撃をした。

『一騎、すぐに戻れ!』
「無理だ!」
『それでも戻れ!だけでは、敵を倒せない!!』

 Gシステムはあくまで強化。
 迎撃システムが強化されたところで、フェストゥムを倒すことなど不可能。

「まだ島は無事なのか!?」
『無事と言えば無事よ!けど……っ!』
!?」
、こっちはいい!島の防衛を強化することに専念するんだ!』

 一騎は唇を噛み絞めた。
 今から島に向かっても、敵を島に連れて行くようなもの。
 つまり、此処であの敵を倒さなければならない。

(島民の避難は96.3%が完了。向島の自立迎撃システムは使えない。ノルンも数がないか)

 起動出来るファフナーにはクロッシングテストを行った為、遠隔操作で動かせることは出来る。
 だが、それはまだ実験段階の話し。
 クロッシングテストは終了していても、遠隔操作のテストは行っていない。

(こんなことなら、島から出るんじゃなかったっ!)

 過去のことを今更悔やんでも仕方がないが、悔やまずにはいられない。

「3番、5番ブレーカー作動!緊急停止面解放!!」
「緊急停止面解放します!」
「現在、マークエルフ、エリア52に移行中!」
「易々と……侵入を許すとはっ!」

 まさか新手のフェストゥムが来るとは予想していなかった。
 実戦投入出来るパイロットを1人でも多く育てておけば良かったと、今更ながら後悔した。
 いや、パイロットはいる。
 しかしまだ、乗せる訳にはいかない。

『新型スフィンクス、データ登録認証!行動パターントレースします!!』

 翔子はの言った通り、ブルクの待機室に向かって通路を歩いていた。
 少し薄暗い通路に備え付けてあるモニター。
 そこに映る、新手のフェストゥム。

「……止めて……」

 破壊されるノルン。
 抉り取られる大地。

「……お願い……一騎君の島を……壊さないで……」

 一騎が育ったこの場所を、思い出を、帰る場所を。
 大切な人がいる、大切な世界を。
 翔子の瞳に映るフェストゥムは、翔子の願いなど聞き入れない。




 ……約束を守るものも……。
 ……約束を破るものも……。
 ……未来へも、この鎖から逃れることは出来ない……。
 ……しかし、約束は1人だけのものじゃない……。
 ……この時…………分かっていたんだ…………。
 …………彼女だけは…………。