こんな時だからこそ、思い出はたくさん作っておきたい。

 けれど、それが出来ないのが総士の運命。

 1週間に5回は敵がやって来て、ゆっくり休める時間はない。

 ジークフリード・システムで戦闘に参加し、終れば敵の解析と報告書の作成。

 総士が休まる時など、ほぼないと言っても過言ではなかった。

 そして今日も、戦闘と報告書作成に追われ、肉体的にも悲鳴を上げている。

 全ての作業を終え、崩れそうな体を何とか持ち堪えさせ、アルヴィスの自室に戻った。

 バスルームに足を運び、シャワーを浴びて、濡れた髪を乾かしてから薬を飲んだ。

 後はベッドに行って、横になるばかり。

 の、筈だった。

「あぁ、勝手に入ったよ、総士」

 片手を挙げ、ひらひらと手を振る幼馴染、

 はアルヴィスの制服ではなく、スポーツズボンに半袖の服を着ていた。

 何時も寝る時に着ている、パジャマ代わりの格好だった。

「……何だ?」

「へ?あぁ……一騎がね、今日は何も出来そうにないから明日の夕飯食べに来いって」

「夕飯?」

「うん。ほら、戦闘あったでしょう?本当は今日の夕飯に招待したかったらしいんだけど、準備出来ないらしいから」

 の言っている事が理解出来ず、総士は困惑した表情で悩んだ。

 何故一騎が夕飯に招待するのか。

 そもそも、夕飯を食べたいとは言った覚えがない。

 総士が悩んでいると、ふと机に置いてあるデジタル時計が目に入った。

 今日は12月27日。

 自分が生まれた、誕生日だ。

「成る程」

「はい?」

 今度はが首を傾げている。

 総士は首を振り、ベッドに腰掛けた。

「それで?はそれを伝える為に態々?」

「ん〜。まぁ、それもあるよ。でも、今日中に言っておきたかったから」

 は小さく笑った。

「お誕生おめでとう、総士」

 今日、27日は総士が生まれた特別な日。

 この言葉だけは、今日中に言っておきたかった。

「でも……ごめんね。こんな状況だから、何も用意出来てないんだ」

「気にしないさ、別に」

「そう言うと思った。でもね、何かない?私に出来る範囲の事ならやるよ?」

「出来る範囲……か」

 総士は少しだけ考えた。

 今欲しいのは睡眠時間だ。だから、今直ぐ寝たい。

 しかし、それを言う事は出来ないだろう。

 総士はソファーに座るを手招きした。

「何?」

 立ち上がり、総士の近くまで来ると、いきなり腕を引っ張られて総士の胸に飛び込んでしまった。

「ちょっ、総士?」

「……てくれ」

「え?」

 小さく聞こえた、総士の声。

「傍に……いて欲しい」

「……何時もいるじゃない……」

「解ってる。だから、今回は僕が起きるまで傍にいて欲しい」

 何時も、目が覚めた時にはいないから。

 そう付けたし、総士はを抱き締める腕に力を入れた。

 フラッシュバックで苦しんでいる時、何も言っていないのに駆けつけて来る。

 何時も寝るまで傍にいて、優しく頭を撫でたり、手を握ってくれる。

 でも今日は、ずっと傍にいて欲しい。

 朝起きた時、ちゃんと自分が此処にいるのだと、実感する為にも。

「……いいよ……傍にいて上げる………今夜は、ずっと総士の傍にいるよ」

「……………ありがとう……………」

 今、この時だけは平和な時間を。

 今、この時だけは安らかな眠りを。

 今……この時だけは…………。