2週間ぶりに皆城家へ帰って来た・・・・・・が、家に入った瞬間、は顔を引きつった。

「・・・・・・掃除、しようか・・・・・・」

「・・・・・・そうだな」

 帰ってからの第一声がこれだとは、さすがに誰も予想していなかった。

 指揮官である2人は、アルヴィスで泊まる事が多く、滅多に家に帰らない。

 は帰ろうとしているのだが、総士を1人置いて帰る訳にもいかず、共に地下で篭りっきり。

 今回は服を取りに帰って来たのだが、2週間ぶりの家は埃まみれになっていた。

 それぞれ分担して掃除を始めるが、何時もなら此処にもう1人いる筈だった。

 今はもう、帰らない人。

 皆城家の大黒柱にして、アルヴィスの司令官だった総士の父、公蔵。

 彼がいない今、この家は子供2人しかいない。

「たまに帰らなきゃ・・・駄目だよね?」

 使われていない為か、テーブルの上に白い粉があった。

 勿論、これは溜まったゴミである。

 台拭きでテーブルの上を拭き、新しい雑巾で棚を拭く。

、風呂も洗うのか?」

「あ、うん。掃除し終わった後に入りたいな。総士だって、何時もシャワーじゃ駄目だよ」

「つまり、洗って入れ、と言う事か」

「大正解」

 小さく溜息を漏らした総士だが、そのまま風呂場に向かって水で辺りを流し始めた。

 水の音を聞きながら、は棚を拭いていく。

 そこでふと、の手が止まった。

 棚の上に飾られた1枚の写真。それは数年前、一騎を含めた3人で撮った写真。

 この時はまだ、竜宮島は平和だった。

 子供は何も知らず、ただ笑っていた日々。

?」

 仕事を終えた総士がリビングにやって来て、の見詰める先にある物を目にした。

「あの時の写真か」

「懐かしいよね。あの時の総士は、まだ笑ってた。けど、今は笑ってくれない。一騎も・・・・・・だけど」

 少し哀しそうに写真を見詰める

 写真の3人は、幸せそうに笑っている。けれど、今の3人は違う。

「僕が笑わない理由・・・判るかい?」

「えっ?」

「僕だけじゃない。一騎だって、同じ気持ちの筈だ」

「どう言う事?」

 総士は少し考え込んでから口を開いた。

「僕達が笑わないのは、が笑わないから」

「私?」

 そう、と言って総士は写真に目をやった。

が笑ってくれるなら僕達だって自然に笑う事が出来る。でも、最近のの笑った顔を、見てない」

 確かに、ここ最近では笑った記憶がない。

 指揮官と言う事もあって、パイロット達よりも仕事量が多い。

 忙しい日々に、笑っていられる状況などなかった。

「私が笑うと・・・2人は笑ってくれるの?」

「あぁ。は僕達にとって特別だから。だから、が笑うと僕達も笑う」

「そっか・・・。そうなんだ」

 少し安心したようで、は小さく笑った。

 それを見た総士も、自然と小さく笑っていた。



 2人が笑うことの出来る理由は、特別な存在が笑ってくれるから。

 何時までも笑っていられるように。

 何時までも絶えないように。

 だから2人は、戦う事を決意したのかもしれない。

 彼らにとって、守りたい者は一緒だから・・・・・・。